【特別企画】「王者の風格」発売記念ロングインタビュー

2016年に結成し、今年5月10日に、ファーストアルバム「王者の風格」をリリースした苫小牧の5人組バンド「THE FLEA MARKETS」(ザ・フリーマーケッツ)。

今回の収録曲は、主に作詞作曲を手掛けるメンバーのSUGIchan(Gt)が大きく影響を受けた90年代のJ-POPを彷彿とさせながら、現代がミックスする13曲。多感な時期を過ごした苫小牧の「あの頃」をちりばめた歌詞に、ボーカルKENJI(Vo)の深く重厚感ある声が、テンポの良いロックと交わり独特の余韻を残す。

また、苫小牧を拠点に活動する歌手の門田しほり、そして、ロックと和の融合を目指し「樽前ばやし」を迎え、表現の幅を追求した。

バンドとして、苫小牧の子ども食堂等への寄付を目的としたライブ「HAPPY RELATION」開催のほか、ボーカルのKENJIは、「とまみん 苫小牧百年花火」の実行委員長をつとめるなど、社会貢献活動にも力を注ぐ。今回のアルバムや、音楽を通したまちづくりへの思いについて、SUGIchan(杉村原生)、KENJI(葛西賢治)にインタビューをした。

(インタビュー:紙の街の小さな新聞社ひらく 山田香織)

●90年代J-POPを彷彿とさせるメロディ

Q 最初に、メンバーの皆さんの年代を伺って良いですか。―というのも、私は40代前半ですが、今回の収録曲の歌詞を読み、学生時代を過ごした「あの頃」の街の様子と、多感な頃の自分の感覚みたいなものが、さっと目の前に走馬灯のように浮かんだ感じがして、とても共感したんです。

SUGIchan そう感じてくれたなら、すごくうれしいです。

僕は今46歳で、6歳くらいに苫小牧に来ました。そこからずっと苫小牧。ほかのメンバーも42歳~48歳です。

 僕は、学生時代から20代の多感な時期をこの街で過ごしましたが、あの頃の中心市街地は、すごく面白かった思い出があるんですよね。学生時代は古着屋とか、レコード屋とか、いろんなお店があって、冒険するように街を歩いていた。そういう中で、自分のアイデンティティが形成されていったという感覚がある。

 そういう当時の体感を表現したいなと思い、かなり表現には気を使いながら、自分の中にあるものを言葉に落とし込んでいきました。

 また、僕らはまだあの頃子どもだったけど、当時、街をつくっていた大人たちは、どんな願いを込めていたんだろう…ということも、ずいぶん考えましたね。

KENJI 僕は今44歳です。中学生まで苫小牧で、高校は室蘭だった。1998年まで苫小牧にいて、その後は東京に出て、2011年に苫小牧に戻ってきたんです。久々に戻ってきたら、まだサンプラザは開いてはいたけど、東側が伸びてきていて、(苫小牧駅の商業施設)エスタも無くなっているし、帰って来た時は、寂しい感じがしましたね。

 ですが、帰苫後は、さまざまな方とのつながりができて、こんなにも豊かな街だったのだと今は気付かされています。

Q今回の収録曲の歌詞をまず読んで、その後、音楽を聴いたのですが、メロディも学生時代に聞いていたJ-POPの雰囲気があり、すっと入っていけました。90年代っぽくって好きだなと、すごく懐かしい感じがしたのですが、これはあえてその時代感を狙ったのでしょうか。

SUGIchan 僕、90年代前半のJ-POPがものすごく好きでして。日本が誇るべき財産だと思うんですよね。何が良いかって、本当にいろいろあるんですけど…。

技術的なことを言えば、今技術が発達して、いろいろな「編集」ができるようになっています。だけど、あの頃はかなり制約があって、それゆえに収録は繰り返し、納得できるまでテープを回していた時代でした。そうやって生まれてきた音楽だから、なんというか…今とは違う緊迫感がありますよね。

今、音楽は本当に多様化しているけど、僕の音楽の原点は、そこにあると思っています。だから、質問への答えは、狙っているのではなくて、「単純に、好きだからそうなっている」ですね(笑)。

KENJI そうそう、テーマに狙いはあっても、音楽性は狙っていないよね。好きだからこうなっているんですね。

●苫小牧という地域性を前面に

Q 音楽性は狙っていない、一方で、「THE FLEA MARKETS」としての活動方針というか、テーマには狙いがあるということですね。

KENJI はい。僕ら結成したのは2016年だったんです。苫小牧JC(青年会議所)のメンバーで、JCは40歳になったら卒業なので、卒業式で「LUNA SEA」のコピーバンドを余興でやろう、ということになったんです。それが結成のきっかけでした。だけど結局、出番が無いまま終わり、その後、何もしない時期がしばらく続いたんです。

 再開したのはコロナ禍の時。SUGIchanが、ライブハウスで出演予定だったバンドが次々とキャンセルになり、ライブができないって言うので、じゃあ再開しようか…という感じで再開したんです。ただ、最初はバンドのテーマみたいなものはノープランでした。

SUGIchan 2023年くらいから、ただ趣味でやるというよりは、地域に何か還元できたら…という感じに変わっていった。きっかけになったのは「FANTASY DOME」(今回の収録曲)からですね。

地域ネタを取り入れながら、音楽的にもカッコ良いと思えるものを両立させて作っていこう、って。地元ネタを取り入れつつも、東京ではなく、苫小牧でこれを作っているんだ、と思ってもらえるような完成度を目指したかった。

Q カッコいい曲だな、と思って聴いていたら、昔から知っている苫小牧の姿が出てきて。しかも、そこには懐かしさや、郷愁、大人になった自分とあの頃と…、いろんなものが思い浮かぶような仕掛けがちりばめられていて。

つまり、言語化されていなかった自分の中の何かが、曲を聴いていると、はっきりとしてくるような気がしたんですよね。おのずと「ふるさと」というものを考えるというか…、ふと立ち止まるきっかけになるというか…。

SUGIchan そう聴いてもらえたなら、うれしいですね。瞬間的にイメージが浮かぶという部分は、かなり表現を意識したんです。「光と道」とか、「百年先の君へ」もそうです。

僕、「ふるさと」って、特別意識したことは無いんです。いつもいる場所だから、認識する機会ってかなり少ないですよね。

中学、高校、20代、そういう時期を過ごしたことがバックボーンにあって、自分のルーツになっている。「ふるさと」っていうこだわりは、自分の中ではないけど、「大事にしている」っていう感覚も無いけど、でも結局、大事にしているんでしょうね。

KENJI 僕は、SUGIchanとは違って、苫小牧を離れたので、多感な時期に苫小牧で過ごしていないんです。だから特に「ふるさと」って、感じたことは無いし、王子製紙と港がある街、というぐらいのイメージでした。

だけど、ある時、仕事で釧路に長期滞在したことがあったんです。釧路って、すごく苫小牧と似ていて、製紙会社があり、港もあって、空港も近くにあって、あの街の雰囲気に僕は「あぁ、苫小牧に帰ってきた」って思ったんです。

 その時、自分の中に「ふるさと」を感じ取る感覚があるんだな、ということを認識した。東京で長く暮らして、あそこはなんでもある街だけど、苫小牧に帰って来て、暮らすのに不自由のない、すごくいい環境だなって思いますよ。

SUGIchan 本当にそれは感じる。

この街で生まれたということが、すごく恵まれている、って感じます。いろいろな環境に振り回されることの無い場所だなって思う。適度に便利、適度に人の規模感がある。大人になってそのことに気付いて…。

自分のように、形のないものを、0から1に起こしていく、そういう人にとっては、自分の価値観みたいなものを守りながら、生かしていける街なんじゃないかと思っています。

Q KENJIさんはボーカルをやるのは、このバンドで初めてだとか…。

KENJI はい。カラオケなんかにいって、周りよりちょっとうまい人、っていますよね。僕も、その程度で、特にバンド活動をしていたわけでもなく、ましてや人前で歌ったことなんてカラオケ以外、無かったですね。

Q どうして、バンドでボーカルをつとめることになったんですか。というのは、曲の雰囲気とボーカルが、すごくマッチしているように思うんですよね。だから、どうやってこのボーカルを探し出したのかなと思ったんです。

KENJI 僕はただ単純に「やって」って言われたから引き受けた(笑)

Q そんなに簡単に…(笑)

KENJI 僕、「困るんだけど助けて」と言われて動くことが多いんです。

これは、聖人だとか、誰かのためにやっている、ということじゃ全然なくて、僕、自分で「やりたいこと」を見つけられないんだと自覚しています。

何かのためにしか動けない自分が、何かのために役に立っている、と思える活動を、こうしてやらせていただいているという、そんな気がします。

SUGIchan 声を掛けたのは、メンバーの梶Pでした。最初はLUNA SEAのコピーバンドという余興で作ったので、そこまで深く考えてはいなかったんですけど…。

ただ、バンドにとって、センターの役割というのは、歌えるだけじゃなく、盛り上げ役でもあるんですよね。そこが、すごく良かったと思っています。

KENJI君は、声質が低くて、すごく重厚ですよね。僕も曲を作る時はそこを意識します。ちょっとカッコつける曲が、この声にはまるんだろうな、と思う。90年代の曲はそういう意味でも、「はまっている」のだろうと思っています。

●それぞれの曲への想い

Q 先ほど、「FANTASY DOME」が、バンドのテーマを方向付けるきっかけになったというお話をされていました。

ちょっと説明しますと、駅北口にあった屋内遊園地「ファンタジードーム」をテーマにした曲です。歌詞がすごく良いですね。

「全ては時代の過ち/そんな悲しげな世論をよそに/いつかもう一度あの景色を眺めてみたい/止まらないこの思いをいつまでも繋いでいくよ」という部分とか…。

SUGIchan ファンタジードームがオープンしたのが、僕が小学校6年生の頃で、すごく楽しかった思い出があるんですよね。

それが間もなく閉鎖になって「あの時代が作り出したもの」だとか、いろいろな価値も、あったのだと思います。

だけどそもそも、当時、関わっていた大人たちは何を思い、どんな街にしたいと考えて、あの施設を作ったのかなと想像したんです。僕は、楽しい思い出がとにかく残っていて、そういうことを考えながら作った曲です。

Q そのほかにも、「光と道」をはじめ、駅前とか錦町のアーケードなどの中心街がテーマになった曲が多いです。

「光と道」なんかは、鶴丸とか駅前通りの銅像とか、赤い電話ボックスとかが出てきて。「風に吹かれ揺れ動く面影にやり場のない寂しさを埋める」という歌詞など、現在とあの頃が交差する感じで、浮かんでくるイメージがとても鮮烈な曲だと感じました。

SUGIchanさんは、実行委員会をつくって、中心街を歩いてもらおうと「活性の火」という野外音楽フェスを開催しています。中心街に対する思いというのは、とても大きいものがあると思いますが、どのような思いを、こうした曲に込めているのでしょうか。

SUGIchan 僕の中で、寂しさがぬぐえないんですね。

現実的に考えると理想だとは分かるけど、やっぱり僕は、あの頃の楽しかった中心街がもう一度見たい。夢があふれているというか…。

今の若い世代は、そういう中心街を知らなくて、僕がもしかしたら、そういう中心街を願う最後の一人になるかもしれないけど、曲げないで、その願いを持ってやっていきたいなと思っています。

 今、再開発の話が出ていますけど、なんかモヤモヤしてしまって。どうしたら良いのか、っていう具体的なものが出ない自分にモヤモヤするんですけど。

あの頃のドキドキ、ワクワク感というのを、どうしたら感じられる街になるのかなと、ずっと考えています。

KENJI 「ワクワク」が大事だって、僕ら本当にすごく言っているよね。どういう中心街を未来に残すのか?ということですよね。

中心街の話からそれますが、6月22日に、苫小牧で22歳以下の学生、社会人の出演無料の「TOMASEIグループpresents とまこまいGXエコーズミュージックフェス」(実行委主催)というフェスがあるんです。僕、今、「一般社団法人タウンマネジメント」の立場からここに関わっているんですが、高校生と一緒に、企画を考えているんです。

 バンドをやっているといっても、活動の場はライブハウスに主に限られていて、どこかアングラみたいになっていて、発表の機会は本当に限られているんですね。親とか、友達とか、いろんな人に、自分の活動を知ってもらう機会を、大人が協力しながら作り上げていく。そうしたことを通して、協力してくれる大人がいるんだとか、自分に自信を持ち、チャレンジすることの大切さとかを深めてもらえたら…と思っています。

 そういうことが、何かにつながるんじゃないかと思っています。僕ら、ずっと未来に、この苫小牧の良さを残していきたいと思っています。

SUGIchan 「百年先の君へ」は、そういう思いも込めて、KENJIが実行委員長をつとめる「とまみん 苫小牧百年花火」をテーマにして作った曲です。

昔の世代が伝えてきたこと、また技術的だったり時代的背景だったり、いろいろな理由でできなかったことを、僕らの世代が引き受ける。そして、僕らが伝えたこと、また、できなかったことを、次の世代が引き継いでいく。そうして、この苫小牧で、残すべきものを残していって、つないでいけたらと思っている。後の世代に、そういう意味で良い街を残していけたらいいなと考えています。

Q 樽前山神社まつりをテーマにした「祭」という曲も、和とロックの融合のような新しい雰囲気でした。苫小牧で活動している和太鼓グループ「苫小牧創作芸能研究会 樽前ばやし」とコラボされていますね。また、「光と道」「CUTTER」の2曲は門田しほりさんがコラボされている。門田さんの声も、透明感があって、曲の世界観にすごくマッチしていたように思います。

SUGIchan 「祭」は、最初に入っている掛け声は小坂龍三郎太鼓長ですね。

Q あの入り方、とても良いですよね。とても雰囲気があって。

SUGIchan 樽前ばやしさんのステージを久々に観る機会があり、そこで僕は感激してしまって…。音楽に携わるものとして、あの舞台に心を揺さぶられなかったらダメだろうというぐらい、すごいステージでした。

 門田さんは、僕から見ても一流の歌手で、地域の宝ですよね。今回の2曲のうち「CUTTER」は、完全に門田さんをイメージして作った曲でした。

そういうお二方と、今回コラボレーションさせていただきました。

お二方とも、「HAPPY RELATION」というチャリティーライブ(今年も5月10日に開催)でも、ご一緒させていただいていて、良いつながりができたと思っています。

Q ところで「王者の風格」というアルバムタイトルは、どこからきているのでしょうか。

SUGIchan 僕、和光中出身なんですが、和光中で中学生の時、僕は特に目立たない生徒だったんですよね。すごくコンプレックスみたいのを抱えていたのですが、そこで音楽と出合い、救われたと思っています。

それから、中学の頃に先生たちが繰り返し言っていたことが、すごく支えになっている気がしている。

 自分の心さえ折れなければ、なんだって切り抜けられる、という教えです。確かに、そうだなと思います。諦めるも諦めないも自分次第。自分の心次第なんだって…。

そんな、自分にとってはかけがえのない、中学校時代の校風が「王者の風格」だったので、ファーストアルバムには、この言葉を使いたいなと思っていました。

実は和光中に連絡をとり、実際に学校にも行ったんです。現在も、変わらずに「校風」として続いているということ知り、「おーっ」と思いました。

Q KENJIさんは、バンド活動以外にも、「とまみん 苫小牧百年花火」実行委員長としての活動や、苫小牧タウンマネジメントでの活動など、非常に多彩な活動をされていますね。そういう活動を踏まえて、今回のアルバムにどういう思いを込めていますか。

KENJI 音楽という、誰もがなじみやすいツールを通して、苫小牧を盛り上げられたらいいな、ということと、0を1にするために、このアルバムが、ちょっと前に出るきっかけになればいいな、という思いもありますね。

 40代でバンドやっているという人は、今、本当に少ないなと思います。40代になると、家庭とかいろいろなものが落ち着いてきて、新しく何か、例えば町内会とか、ボランティアとか、社会的な活動に踏み出すきっかけって、なかなか無いのかなと思っています。だけど、きっかけがあれば一歩踏み出せる、動けるとして、そうしたきっかけの一つに僕らの活動がなればいいと思っています。

基本情報

「THE FLEA MARKETS」は2016年発足の苫小牧のロックバンド。

メンバーはKENJI(Vo)、SUGIchan(Gt)、GAKU(Ba)、0024(Dr)、梶P(Pg)の5人。2025年3月には「とまこまい観光大使」就任。

ファーストアルバム「王者の風格」(13曲収録)は、税込2500円(送料別途520円)。販売サイト「BASE」で購入できる。サイトアドレスはこちら→ tfm2016.base.shop